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ヨシトと空を飛びたくて [シゴトよりも東京]

ポンというチャイム音とともにシートベルト着用のサインが消えた後、座席前のポケットから取り出したマニュアルを見ながらiPadの液晶を指でなぞる。クレジットカードの情報を入力してしばらく、新規メールの受信を確認した僕は人知れず笑みを浮かべた。夢の機内プロレス観戦、いけるかもしれない。

野球、バスケ、アメフト。米国のメジャースポーツファン(の一般的なサラリーマン)なら誰もが痛感する時差の壁がある。すなわち日曜に現地で開催される試合を、日本では月曜午前に観ることになるのだ。夜ふかし(または超早起き)さえすればどうにかなる欧州サッカーのそれとは根本的に条件が異なる。

例年1月末から2月頭にやたら肩幅の広い「体育会リーマン」たちによる午前半休が大量発生するのをみるにつけ、祝日法をもう少しカスタマイズして、スーパーボウルとレッスルマニアが開催される日曜の翌日は、旗日として確約してくれたらいいのにと思う(これも立派なBuy Americaだよね)。

米国のプロレス「WWE」をこよなく愛する僕もご多分にもれず、日曜の結果を知ることなくコソコソ帰宅して、月曜夜にゴニョゴニョするのを喜びとする週五勤務の労働者である。そんな畜生にとって月曜朝出発の出張は、鎖から解き放たれたまま花畑で乱舞する、そんな甘美な好機を予感させるものだった。

国際線の機内でWi-Fi接続サービスが始まったのは数年前のことだ。初期の無料キャンペーンの頃から、不良サラリーマンはこれを頑なに拒絶してきた。時間とメールに追われる日常からの避難所。スマートフォンの電源を切った瞬間、そこに広がる自由の世界。現代のオアシスを上空の彼方に求めていた。

閑話休題、相変わらず文章がくどい。冗長な作文を悪癖と恥じつつ簡単に整理すると、要はなんとか観られたよプロレスは。それに対してDAZNの(というよりJリーグの)体たらくたるや…というのがこの記事の主旨である。機内のネット接続はメールやLINEのやりとりは問題なく行えるレベルだった。

しかし大容量のデータ受信を求められる動画配信を楽しむには、さすがに力不足であった。航空会社のサービス案内にもやんわりと「さすがにそこまでは無理やで」と記されているので、そのこと自体にケチをつけるつもりはない。ドーンと始まったWWEのPPVイベントだったが、まもなく画面が凍結した。

予見されていたことだったので失意の度合いは小さい。それどころか音声だけは滔々と流れ続けるので、ラジオでビッグイベント序盤の煽りアナウンスに耳をすますような、不思議な楽しみ方ができた。16.80ドル、リスニング教材としてはお高いが、好奇心を満たすための実験費用としては有意義だった。

さすがは世界一のプロレス団体。World Wrestling Entertainmentの名に恥じぬサービスの提供だ。一定の満足感を得た僕は期待薄でDAZNのアイコンを指で押す。案の定、入口からシャッター・ガラガラ。版権ビジネスの難しさがあるのはわかるけど、まだ日本国の上空だよ?

映像も音声も楽しめない、翼の折れたDAZN。かくして大久保嘉人の新チャント「ヨシトが空を飛ぶ」を、実際に空飛びながら口ずさむという遠大なる野望は未遂に終わった。Jリーグ世界戦略、その道は険しい。森重真人がビシッと締める宣伝「FOR YOU」とは国内のファンに限定したものだったか。



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