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Hot Dog Express(後篇) [青き空想赤き妄想]

マイルストーン。そう、東海道線に乗ればほんの数分で越えたその川を、彼は府中本町の手前で密かに(十倍以上の時間をかけて)渡っていたのだ。かくしてマスタードは多摩川対岸に運び込まれ、列車は一気に加速する。『ココマデ来タラ大丈夫モウスグゴールネ』アフリカなまりの陽気な広島弁が聴こえた。

いつの間にか他の客が乗り合わせていた。仲間デホットドッグ作ルノ楽シイネ。大きな口を開け、白い歯を見せながらその男はニンマリ笑った。列車が猛スピードで駅を通過する。左から右へ流れる景色の奥、彼が視界にとらえた駅名標は、ウタカにもミタカにも見えた。気がつけば黄色い列車が並走していた。

ケチャップあってのマスタード。マスタードあってのケチャップ。『オンブニダッコダヨ』アフリカなまりの広島弁の解読は難儀で、おんぶに抱っこの意味も誤解まじりではあるが、ギブアンドテイクの大切さを説かんとする男の意図は感知した。一度預けたホットドッグを瞬時に受け戻して、マスタード一閃。

長らくお待たせ致しました、ご注文のホットドッグでございます。手を合わせ配達遅延を詫びた彼に注がれる大歓声で、列車が大きく揺れた。隣の車両で待機していた仲間たちが扉を開けて次々と飛び込んでくる。本来ならば最後方で安全運転を見守るべき車掌までも、巨体を揺らして祝福の輪に加わっていた。

首都の闇夜を切り裂くように、列車は東方へと走り抜ける。ようやく軌道に乗った「青赤特快」が枕木踏む音も軽やかに新大久保を通過したその先、副都心の夜光が眠らない街の輪郭を浮かびあがらせた。惑いと迷いはもう消えた。この街で生きてゆく。鋭さを取り戻した両の瞳に、不夜城の灯が鈍く反射した。



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