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狂想曲の舞台裏(後篇) [続東京向日葵日記]

「そうするとキミもパパと同じでピーター・ウタカ選手に期待しているのかな?」この時点でおおよその空気を察知することができた。何故彼らが取材にやってきたのか、僕たち親子に何を求めているのか。『違うよな、他にも期待している選手がいるもんな』オトナの所作、そっと優しいパスを出してあげた。

『うん、林彰洋選手です』またも違う角度から強烈なシュートを放った息子が再び語り始める。前線の選手の活躍ばかり報道されるが、ほぼ毎試合ビッグセーブを披露している林選手の働きあってこそ、得られている勝点があるのだという「選出理由」を、小学三年生の語彙で表現するのは相当な時間を要した。

ウタカさんが外国人であることは把握しつつも、ハヤシさんがGKであることは息子の演説で初めて理解したらしいインタビュアー氏、遂に掟破りに走る。「久保建英選手はどうかな?」『久保選手も見たいです』お利口さんの即答を果たすも、助詞の「も」が素材としての価値に傷をつけることを僕は悟った。

『ダメだよ、テレビに映りたいんだったら「久保選手です」って言い切らないと』『えーっ、でもどっちか選べって言われたら林選手だなぁ』『ほら、テレビの人たち困っているじゃない』『えーっ、じゃあ林選手と久保選手です、は?』『それもダメ』『じゃあ今夜回転寿司に連れて行ってくれる?』『OK』

ようやくたどり着いた予定調和の流れ。再び向けられたマイクに向かって今度は父親がロングスピーチを展開する。『理由はどうであれクラブが注目されるのは嬉しいこと、でも騒ぐだけ騒いだ結果、若き逸材がメディアに壊されてしまう事例を僕たちは何度も見てきているから、そういう意味で不安も大きい』

『久保選手の成長とともに、FC東京というクラブが大きくなっていってくれたら嬉しい。知ってます?五輪で背番号10を背負った選手が、軒並みウチのクラブに所属しているんですよ?梶山陽平、中島翔哉、あと一人誰だっけ?まぁいいや、その系譜を久保選手が継ぐと。これは記事にしやすいでしょう?』

『人を生かすも殺すもメディアが発揮する力は大きい。揚げ足取りで特定人物の短所・失敗を叩きまくる風潮から脱して、本腰を入れてこの国の文化・スポーツの素晴らしさを発信する本来の役割を取り戻してくれませんかね』もちろん全面カットである。数分に渡った取材、採用されたのはほんの数秒だった。

『久保選手です』感心するほど上手に切り取られていた。愚かな視聴者が愚かなテレビ局を容認し、愚かな情報操作が視聴者をまた愚かにする。その片棒を担いでしまったのかと苦々しく感じる一方(確信犯的行為だったけど)過熱報道がクラブの糧になることを期待する。ガス同様、火加減が難しいわけだが。



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