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attention [アウェイの地にて]

梅田の地下街には鈍重な空気が漂っていた。異例の「先行配信」となった容赦なき夏日が、鉛のような不快感に拍車をかけた。駅前第1ビルの薄ら汚れた迷路の先にあった串揚げ屋でレモン酎ハイをあおる。伊丹空港行のリムジンバスに間に合うよう、タイムマネージをするのが同伴者に課された唯一の仕事だ。

『本当にサッカーを観るためだけに大阪まで来られたんですね』すごいですと何度か繰り返した若者、4月に転勤するまでは直属の上司・部下という関係だった。新天地での生活がまだ試運転期間にあることは、御堂筋線を降りてから店までの所要時間に表れていた(確証はないが絶対に近道があったはずだ)。

週末のプライベート時間に炎天下のスタジアムへ呼び出され、青と赤のユニフォームとタオルマフラーの着用を要求される。初めて耳にするチャントを歌わされながら、ビールの売り子の動静も絶えずチェックさせられる。若者にはガスハラとでも呼ぶべき、新手のハラスメントと受け止められたかもしれない。

『彼女が伊丹ステイのときに会えますので』単身生活は寂しくないかという問いへの回答だった。文句なしの美女と好青年の組合せ。嫉妬されるべき人生を歩む若者は、謙遜と気配りの塊。意図して話題を散らしてくれるのがありがたい。サッカーよりもいつも笑顔の客室乗務員の話を聞くほうが、今は楽しい。


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合唱 [青赤「喜」怒哀楽]

前節・磐田戦のボレーが「動」なら、今節・札幌戦で決めたそれは「静」だった。勇まず、昂らず、自然体で振られた久保建英の左足。ネットが揺れるまでのテンポがコンマ半分早いと感じ、唖然とさせられた。控え目に徹した喜びの表現もまた、凄みに拍車をかける。抜き、斬る。居合の達人の佇まいだった。

まだ見ぬ世界とはこの先に待ち受けるのか、それとも既にそこへ足を踏み入れているのか。答えはわからないが、肩を組み一列に並ぶ選手たち(と、愛しいマスコット)と共に歌うYou’ll Never Walk Aloneは経験したことのない、感動的な光景だった。皆が、皆で変わろうとしている。


タグ:久保建英
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September [青赤喜怒「哀」楽]

一筋の弧を描いて、その厚い「層」を彗星が突き抜けていった。瞼の奥に焼きついた箒(ほうき)の残像を追いながら、人々は急激に熱を帯びた感情を思い思いに放散させていった。やがてスタジアムを包み込むEarth, Wind & Fireの名曲。幾度も繰り返された、5月のSeptember。

曲名は9月だが、描かれるのは男(もしくは女)が過ぎ去りし熱い夜を回想する12月の世界。そのチャントには如何なる願いが込められているのだろう。別離の予感が言葉にならない焦慮を煽る。「Do you remember?」9月、12月。久保建英という星はどの街の空で輝いているのだろうか。



タグ:久保建英
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失わなかったもの [アウェイの地にて]

新大阪駅に到着して程なく気づくエスカレーター文化の差異。面白がりながら右側に立ち、早く「大阪のおばちゃん」が見たいと騒ぐ息子の口を塞ぎ御堂筋線へ乗り込んだ。雑居ビル一階の奥にある串揚げ屋でペーニャ仲間と合流、飲み食いの後は戎橋へ散歩して、グリコをバックにジャエルポーズで記念撮影。

翌日、小川諒也が立っていたのもピッチの右側だった。こちらは文化の問題ではなく前日練習で室屋成を襲った事故の副産物。守備では奮闘するも攻撃時の脅威にはなりきれず、右足からのクロスは失速した。それでも組織としての堅守は維持、筋書きに狂いが生じても堅実な結果を残せたことは評価に値する。

昨シーズン終盤「崩落の引き金」となったのはアデミウソンに蹴り込まれたロスタイムの一撃だった。そういった意味で同一犯による蛮行をすんでのところで防いだ林彰洋の功績は、ビッグプレーという言葉で片づけられない重みを持つ。久保建英に集中した報道陣のカメラ、主役はその遥か後方で鈍く輝いた。

鬼門と呼ばれる地でつかみ得た勝点1。できること・やるべきことを確実に・着実に積み上げる作業が継続できている証。一足飛びに進む必要はなく、最良の結果を導けないとしても決して動じない。十戦無敗、失わなかったものもまた得たものと解釈する。こどもの日の前日に「おとなへの問い掛け」として。


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