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Hello, I'm home.(後篇) [憧れの中央線生活]

生活の設営はユーティリティーの整備から始まる。いわゆる電気・ガス・水道の三点セット。電力小売自由化という流れに乗じて「東京ガス様」からガスのみならず電気も買わせて頂くこととした。一切の迷いはなかった。生活の隅から隅まで青と赤に浸かりたい。できれば水道も東京ガス様と契約したかった。

生活の設営が済んだら、精力的に街へ繰り出す。なにせ土地勘がない。情報は足で稼ぐものと、張り切ってジョギングするまではよかったが、青赤の旗に誘われるがままたどり着いたのは、お隣の武蔵境駅だった。最寄駅へすらいけない若葉マーク、そんな状況にも笑いが止まらない。なんだか嬉しくて楽しい。

自転車に乗ると活動範囲は一気に広がる。東八道路を西へ向かい、多摩霊園を抜けて府中へ。大國魂神社は競馬場の巨大なスタンドを左手に見た、その先にあった。選手たちに遅れること数週間、心を鎮めて掌をあわせる。無病息災・交通安全・必勝祈願。もう一度必勝祈願、さらに念のためもう一度必勝祈願。

神社からの帰りは、甲州街道を東へ。やがて見慣れたスタジアムが見慣れない角度から現れる。聖地から聖地へ。浄化した心が一転、熱く滾(たぎ)るのを感じた。下車して一礼。ここから自宅への道程は、息子を連れて自転車通学するルートの下見となる。通学。そう、スタジアムは社会の学び舎なのである。

再び地元に戻り、駅近くのひなびた跨線橋へ。広大な電車庫に架かる太宰治ゆかりの橋は、鉄道ファンにも有名だ。かつてはベビーカーに息子を乗せて練馬からここへ通ったものだった。大好きなスーパーあずさに手を振っていた彼は、三学期が終わると東京へ帰ってくる。今度はどのような反応を示すだろう。

冬と春が入り交じった風を感じながら、僕はペダルを踏み込む。路線バスが停車するだけでノッキングを起こしてしまう細いバス通り。少しずつ経験を重ね学習した抜け道へ、そこにもたなびく青と赤。自然と笑みが浮かぶ、希望に満ちた新生活。風が吹き、旗がたなびく。夢見た日常、時計の針が動き始めた。



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Hello, I'm home.(前篇) [憧れの中央線生活]

こんなに夜遅くなっても、驚くほど多くの人々が改札口から吐き出されてゆく。見慣れたはずの景色だが、六年ものブランクを経た身体が思考についていかないようで、日に数度は目眩を覚える。疲弊した肉体と肝臓を引きずって、その駅の南口に降り立つ。バス通りにたなびく旗に心が潤う。旗の色は青と赤。

朝早くから働き、夜遅くまで飲む。新天地で新たな任務を与えられたサラリーマンの宿命である。いつしか漠然と憧れていた中央線沿線の生活。昨年末から続く不摂生がたたりボロボロになっている身体だが、新鮮味と高揚感が背を押し足を軽くしてくれる。右折しても左折しても、そこに青赤の旗が連なる街。

転勤、転居。物件を探すにあたり、フツーであればコンパスの針をオフィスにあてるものらしい。首都圏にぐるりと環を描き、家賃と通勤時間を天秤にかけて、理想と現実の狭間に着地点を見出す。ところが僕の場合は最初から針がスタジアムに固定されていた。ぐるりの中心に位置するのは、他ならぬ飛田給。

新居の選出条件は三点。一つ、息子と一緒に自転車で味の素スタジアムに通えること。二つ、最寄駅そして商店街に青赤の旗が掲げられていること。通勤時間なんぞ端から度外視、最寄駅は「最早寄ってすらいない駅」の略称であり、不動産屋情報によると徒歩35分(誰が歩くねん)。そんな郊外の、畑の隣。

新居探し三つ目の条件「奥様の御承認を賜る」が暴走に歯止めをかける抑制力だった。息子を育てるにあたっての周辺環境、小中学校までの通学環境など、社会人・常識人として極めてまっとうな点検項目のチェックを済ませ、ハンコをポンと。夢にまで見た「味スタチャリ通生活」の権利を得た瞬間であった。



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