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雨の記憶 [続東京向日葵日記]

メモリアル・ゲームはまたも雨に見舞われた。覚えているかな、あのブラジル人選手の「最後の試合」に付き合わせたことを。覚えていない、雨合羽を着た母から正直な答えが返ってきた。そんなものだよな、彼女は(相変わらず物静かに横へ座る彼女の夫も)選手より孫に会うためにスタジアムへ来てくれる。

あの日もひどい土砂降りだった。屋根がないバックスタンドに両親を座らせたまま、僕は王様のゴールに絶叫し、熱狂した。15年前の柏・日立台、まだ孫が生まれる前の出来事。そういえば両親は、何を目的にあの誘いを受けてくれたのだろう。変わらぬアマラオの姿を目で追いながら考えて、ほどなく止めた。

雨に濡れながらの試合観戦、さぞ辛いに違いない。それでも笑顔を保ち、どこまでも温和な母(ついでに父)。果たして自分はこの先、どれだけ優しさを維持できるだろうか。そもそも維持するだけの優しさを持ち合わせているだろうか。浮き沈む自己肯定感、降ったり止んだりを繰り返すこの日の雨のように。

親としての在り方とは。単純なことほど問いかけるのが難しい。親から子へ受け継がれるもの、語り継がれるとき。雨足が再び強くなった17時、特別な日を祝す金色のユニフォームを身に纏った選手たちと、彼らに手を引かれた子供たちが入場してくる。母は、ますます慈愛に満ちた視線をその方角へと向けた。


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Mission "Iniesta" Complete [続東京向日葵日記]

小学生の夏休みは忙しい。湖畔の空手合宿から帰宅した日の夜、翌朝からサマーキャンプが始まるその前夜、腰の重い息子をスタジアムへ連れていくにはクルマでの送迎サービスが必要だった。ハンドルを握る奥様に手を振ってメインゲートへ。試合開始30分前、依然長蛇の待機列。明らかに平時と異なる景色。

テディベアが当たる・当たらない以前の問題で、入場時にストラップを手に入れることすらできなかった。ゲートの先には額に貼られた透明の若葉マーク、チケット片手に周囲をきょろきょろしている老若男女。ようこそ味の素スタジアムへ(ついでにこれも言わなければ)ありがとうアンドレス・イニエスタ。

びっしりと埋まった対面のゴール裏スタンド。 日頃は見慣れぬ「緩衝地帯」がくっきりと浮かび上がっていた。過去に蓄積した経験から、スタンドの埋まり具合でおおよその観客数を言い当てることができるようになっていたが、そんな「東京野鳥の会」会員にとっても、さすがにこの日ばかりは難しかった。

44,801人。クラブ史上二番目の大入りとなったが、それまで二位だった2002年7月の磐田戦(45,925人)は僕にとって青赤キャリア二度目となる東京スタジアムだった。0-2というスコア以上の絶対的な力量差をジュビロに(高原直泰に)見せつけられた。あの日のスタンドも、とにかく暑かったことを思い出す。

どんな酷暑でも、どんな惨敗でも。何があってもこのクラブをサポートすると心に決めたのは、初観戦(前述磐田戦の一週前)で鮮烈な印象を植えつけられたからだ。戸田光洋のハットトリックを含む4-0の圧勝、爆発するゴール裏、沸騰するスタジアム。あの夜、得も言われぬ甘美な感情が僕の脳髄を貫いた。

スコアレスのまま試合時間が進むにつれ、ゲームの勝敗とは別の角度で焦燥感に駆られていた。チケットが完売しただけでは意味がない、あの空気を作り出さないかぎり、今宵の一見さんは再訪者になり得ない。『ゴールを!』スタンド上層部に空席が見え始めた90分、切実なる思いに潤いをもたらしたリンス。

今後に大きな影響を与えるであろう(と信じたい)営業スタッフ含めたクラブ全体の勝利だった。「リンスって誰?」で構わないのである。あの夜の僕も「髪が赤くないほうの戸田という選手」だった。ニアをぶち抜いたあの弾道、大観衆が立ち上がり大声を上げたあの瞬間、幾人のココロに刻まれただろうか。

そういえば戸田もリンスと同じく背番号13でな。帰路、喉が渇いた息子はそんな父の話を聞き流す。新たに与えたレプリカは大人サイズ。親離れしてもたまには一緒に観に行こうという願いを込めてのものだが、自身の名前が印字されたユニフォームが少し恥ずかしいと訴えるのが、10歳の少年の現在地である。





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    狂想曲の舞台裏(後篇) [続東京向日葵日記]

    「そうするとキミもパパと同じでピーター・ウタカ選手に期待しているのかな?」この時点でおおよその空気を察知することができた。何故彼らが取材にやってきたのか、僕たち親子に何を求めているのか。『違うよな、他にも期待している選手がいるもんな』オトナの所作、そっと優しいパスを出してあげた。

    『うん、林彰洋選手です』またも違う角度から強烈なシュートを放った息子が再び語り始める。前線の選手の活躍ばかり報道されるが、ほぼ毎試合ビッグセーブを披露している林選手の働きあってこそ、得られている勝点があるのだという「選出理由」を、小学三年生の語彙で表現するのは相当な時間を要した。

    ウタカさんが外国人であることは把握しつつも、ハヤシさんがGKであることは息子の演説で初めて理解したらしいインタビュアー氏、遂に掟破りに走る。「久保建英選手はどうかな?」『久保選手も見たいです』お利口さんの即答を果たすも、助詞の「も」が素材としての価値に傷をつけることを僕は悟った。

    『ダメだよ、テレビに映りたいんだったら「久保選手です」って言い切らないと』『えーっ、でもどっちか選べって言われたら林選手だなぁ』『ほら、テレビの人たち困っているじゃない』『えーっ、じゃあ林選手と久保選手です、は?』『それもダメ』『じゃあ今夜回転寿司に連れて行ってくれる?』『OK』

    ようやくたどり着いた予定調和の流れ。再び向けられたマイクに向かって今度は父親がロングスピーチを展開する。『理由はどうであれクラブが注目されるのは嬉しいこと、でも騒ぐだけ騒いだ結果、若き逸材がメディアに壊されてしまう事例を僕たちは何度も見てきているから、そういう意味で不安も大きい』

    『久保選手の成長とともに、FC東京というクラブが大きくなっていってくれたら嬉しい。知ってます?五輪で背番号10を背負った選手が、軒並みウチのクラブに所属しているんですよ?梶山陽平、中島翔哉、あと一人誰だっけ?まぁいいや、その系譜を久保選手が継ぐと。これは記事にしやすいでしょう?』

    『人を生かすも殺すもメディアが発揮する力は大きい。揚げ足取りで特定人物の短所・失敗を叩きまくる風潮から脱して、本腰を入れてこの国の文化・スポーツの素晴らしさを発信する本来の役割を取り戻してくれませんかね』もちろん全面カットである。数分に渡った取材、採用されたのはほんの数秒だった。

    『久保選手です』感心するほど上手に切り取られていた。愚かな視聴者が愚かなテレビ局を容認し、愚かな情報操作が視聴者をまた愚かにする。その片棒を担いでしまったのかと苦々しく感じる一方(確信犯的行為だったけど)過熱報道がクラブの糧になることを期待する。ガス同様、火加減が難しいわけだが。



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    狂想曲の舞台裏(前篇) [続東京向日葵日記]

    「FC東京のサポーターの方ですか?」『どうしてそれがわかったのですか?』彼らとの会話はお約束のやり取りから始まった。遭遇した場所は味の素スタジアムメインゲート手前のペデストリアンデッキ、親子大小の身体を覆うはお揃いの青赤レプリカ。黄金週間にガス臭を漂わす恰好の取材対象なのだった。

    遂に念願の「えふしーとーきょーだましい!」ができる(註)と浮き足立ったのはほんの数秒、取材スタッフ女史が着用するジャンパーやテレビカメラなどの機材に印字されるロゴから、彼らが明らかに異質なテレビ局の関係者であることが認識できた。(註) http://s.mxtv.jp/fctokyo/index2.php

    「明らかに異質な」とは普段サッカーやJリーグに興味を示さないメディアや、Jリーグにあっさり見切りをつける一方で、年末になると空気の読めないお笑い芸人に派手な色のマフラーを巻かせて欧州サッカーの崇高さを説かせることを生業とするメディアを意味する。要するに場違いなお客さまなのである。

    「今日の試合で期待する選手は誰ですか?」『それはもうピーター・ウタカ選手です』マイクを向けられたので、ビシッと即答。ところがカメラ目線で鮮やかに決まったと悦に入る僕をよそに、どことなく澱んだ空気が漂う。ゴールもアシストも決める大型補強最後の切り札、ウタカさんという回答に何故沈黙?

    インタビュアーはそれ以上話を掘り下げることなく、マイクを下方にスライドさせた。今度は同じ質問を息子にパスするが、息子は息子で彼らの期待を大きく裏切り、すぐにパスを返すことなくリフティングを開始した。即ち、質問の意図を適切に汲み取ることなく緊張感も相まって滔々と語り続けたのである。

    『ルヴァン杯の戦いでは前の試合で負けていて、チームとしても今日の試合は絶対に連敗できないので大事な試合ですし、決勝トーナメントに出るには勝たないといけないです。そして今日は相手がサンフレッチェ広島ではないのでピーター・ウタカ選手も試合に出ることができるので勝ってくれると思います』

    父親の発言をしっかり拾い自身のコメントにウタカさんを織り交ぜるあたり、そんじょそこらの小学三年生とはレヴェルが違う。「すごいねサッカー詳しいんだね」に対し『うん「やべっちFC」毎週見てるから』と答えそうになったのはご愛嬌である。カメラは回り続け、インタビュアーの表情はさらに曇る。



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    手を繋いで [続東京向日葵日記]

    札幌駅から乗った快速エアポートの車中で思い出した。今日がキミにとって大事な日、転校初日だったということを。大丈夫かな、過度に緊張してないかな、誇張した自己アピールに走って顰蹙買ったりしないかな。自分のこと以上に心配で、臆病になってしまう。空港に着いた後も、どうも落ち着かなかった。

    大丈夫だと思う。奥様、つまりキミのママから受信したメッセージにはこう記されていた。緊張するどころか寝坊したらしい。エビデンスとして、大あくびをするキミの写真が添付されていた。僕、つまりキミのパパなんかよりずっと大物かもしれない。少し安心して、お土産のマルセイバターサンドを買った。

    離陸後に動画が届いた(最近は飛行機の中でもインターネットを使える)。朝礼台の上から全校生徒に挨拶するキミの姿が映っていた。音声は拾えてないが、しっかりと話せたらしい。上空でサーモン丼を食べながら、イクラみたいな涙がボロボロこぼれた。開幕戦、カシマスタジアム以来のボロボロだった。

    生誕に合わせて(正確には生まれてくる数日前に)作った青赤のネーム入りレプリカが、身体のサイズにフィットするまで大きくなった。叱られてもそれなりに反発するようになったし、将棋だと飛車角落ちでは簡単に勝てなくなってきた。「やべっちFC」から得たかなり詳細な業界情報を語るようになった。

    ずいぶん成長したものだが、まだまだ子供らしい面を見せてくれるので安心する。ご近所になったスタジアムへ行くとき、駅で、道路で、自然と手を繋いでくるのが何気に(いや、随分と)嬉しい。もし一緒に入場できるなら林彰洋選手がイイと語る。呼び捨てにせずセンシュをつけて話すキミの姿勢が好きだ。

    ケッコウ緊張したけどね。電話越しに教えてくれた、その先を聞かせてほしかったけど。如何せん「東京」は忙しい。今宵もまた遅い帰宅となってしまった。誰に似たのか、実にふてぶてしいキミの寝顔を確認。明日の朝も早いから、ヘタすると会えないかもしれないな。それでも大丈夫だ、週末が待っている。

    数年来の我慢の末に、ようやく手に入れた幸せの週末。「揺りかごから墓場まで」軽々しく言えた言葉ではないけれど、実のところキミは有資格者なのだよ。なにせ出生届が出る数ヶ月前から、その名はソシオとして登録されていたのだからね。まぁ、難しい話はやめてスタジアムへ行こう。互いの手を繋いで。



    タグ:林彰洋
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