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ヒロスエ大地に立つ [U遺伝子を継ぐ者]

大きなGKを見慣れたせいか、その身体はどことなく小さく見えた。猫背(好意的に書くなら前傾姿勢)がそれに拍車をかけていた。無論、サイズだけで評価が決まるポジションではない。正確なキックに精悍なマスク、特筆すべき二つの武器を引っさげてのプロデビュー、廣末陸である。舞台はJ3、西が丘。

前後半で観戦する席を移動して、常時その蹴りの弾道を観察できるようにした。いくつかの蹴り分けパターンがあるなかで、直線的な中弾道が特に目を引いた。技術に裏づけられた意図を感じさせるボールの動きは、実にスマート。5番ウッドあたりでこんなショットが打てたらなと、違う芝生を思い浮かべた。

ピッチ脇では川口能活が身体を動かしながら試合の行末を見守る。長きに渡りナショナルチームのゴールを守ったヨシカツの領域まで、果たしてリクは辿り着けるだろうか。漂わせるスター性は申し分なし(プロとしてとても大切なことだと思う)。自身の成長曲線すらをも、自らの狙い通りに描けるだろうか。

U-23を応援する行為は、競馬でいうところのPOG(ペーパーオーナーゲーム)に通ずる楽しみも内包する。下部組織(U-15/18)から見守る人々にとっては、息子たちが夢舞台に立つ直前のステージで奮闘する姿を参観する場でもある。この日のスタンドでも岡庭愁人の母だけで3名ほど遭遇した。

廣末陸の父母、兄弟姉妹、設定はなんでも構わない。「I was there」輝かしきリクの二度とないデビューの場に居合わせたと、胸を張って自慢できる日が来ると信じたい。その権利を有するのは主催者発表で2020人ということだ。東京五輪に向けて、何やらメッセージ性のある数字ではないか。




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Hot Dog Express(後篇) [青き空想赤き妄想]

マイルストーン。そう、東海道線に乗ればほんの数分で越えたその川を、彼は府中本町の手前で密かに(十倍以上の時間をかけて)渡っていたのだ。かくしてマスタードは多摩川対岸に運び込まれ、列車は一気に加速する。『ココマデ来タラ大丈夫モウスグゴールネ』アフリカなまりの陽気な広島弁が聴こえた。

いつの間にか他の客が乗り合わせていた。仲間デホットドッグ作ルノ楽シイネ。大きな口を開け、白い歯を見せながらその男はニンマリ笑った。列車が猛スピードで駅を通過する。左から右へ流れる景色の奥、彼が視界にとらえた駅名標は、ウタカにもミタカにも見えた。気がつけば黄色い列車が並走していた。

ケチャップあってのマスタード。マスタードあってのケチャップ。『オンブニダッコダヨ』アフリカなまりの広島弁の解読は難儀で、おんぶに抱っこの意味も誤解まじりではあるが、ギブアンドテイクの大切さを説かんとする男の意図は感知した。一度預けたホットドッグを瞬時に受け戻して、マスタード一閃。

長らくお待たせ致しました、ご注文のホットドッグでございます。手を合わせ配達遅延を詫びた彼に注がれる大歓声で、列車が大きく揺れた。隣の車両で待機していた仲間たちが扉を開けて次々と飛び込んでくる。本来ならば最後方で安全運転を見守るべき車掌までも、巨体を揺らして祝福の輪に加わっていた。

首都の闇夜を切り裂くように、列車は東方へと走り抜ける。ようやく軌道に乗った「青赤特快」が枕木踏む音も軽やかに新大久保を通過したその先、副都心の夜光が眠らない街の輪郭を浮かびあがらせた。惑いと迷いはもう消えた。この街で生きてゆく。鋭さを取り戻した両の瞳に、不夜城の灯が鈍く反射した。



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Hot Dog Express(前篇) [青き空想赤き妄想]

ここは眠らない街のホットドッグスタンド。水曜夜に売上(ケチャップの消費)をグンと伸ばしたが、舌の肥えた常連客の欲は底が見えない。エンゲル係数の高い彼らを喜ばせるためには、川の向こう岸にある競合店で評判だった辛口のスパイスが必要だった。ところが彼の運ぶマスタードがなかなか届かない。

新作の数々、コリアン風味のオタフクソースやオランダ逆輸入のレフティチーズは、すでに好評を博していた。それでも鳴り止まぬ着信のベル音、ひっきりなしに届くオーダーメッセージ。噂の一番人気を味わってみたい。豪州産のバンズをベンチで寝かしたまま、一刻も早いマスタードの到着が待たれていた。

川崎から東京へ。東海道線に飛び乗ればわずか18分という距離だが、悲しいことに九州で育った彼は首都圏の地理に疎かった。等々力名物「帰路の迷宮」に迷い込んだ彼は、どうやら武蔵小杉あたりから南武線で西北の方向へ向かってしまったらしい。オトナの「はじめてのおつかい」もまた、混迷を極めた。

責任感の塊と化した彼の焦りが募る。「ケチャップみたいなオレンジ色の列車に乗れば間に合うよ。しばらく走るとマスタードみたいな黄色い列車も並走を始める」川岸の住人たちは一様に親切だった。一本気が故の衝突を生むこともしばしばだが、共に時間を過ごすと皆が真っ正直な彼のことを好きになった。

オレンジ色の列車へ乗り換えた。ようやく結果を出せたと安堵した彼に、駅員が無情の旗を上げる。残念ながらそれは中央線ではなく、武蔵野線。府中本町のオフサイド魔術が彼をさらなる苦境へ追い込む。今宵もダメか。列車が静かに、大きなマイルストーンを越えていたことに彼はまだ気づいていなかった。



タグ:大久保嘉人
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そして誰もいなくなった [青赤「喜」怒哀楽]

怒れる狙撃手、悩める救世主。脱いだユニフォームに対する不適切な行為、批判に晒された直後に迎える古巣との一戦。すべての視線がこの男に注がれ、すべての物語がこの男を中心に動いていた。数々の伏線が敷かれた後、互いに絡み合い混線したかと懸念されたが、実は一本の太い導火線に姿を変えていた。

ドラマのクライマックスは終演間際の数分間。千両役者は立派な舞台装置に満足せず、脚本・演出の細部にまでこだわる。導火線に火を点けたのは笑うアフリカン。長く伸ばした脚でワンツーのボールを返すさまは、マッチを擦る動作のように小気味よかった。着火2秒前、巨大な花火玉が彼の足下へ運ばれた。

爆発するスタンド、沸騰するスタジアム。少し遠慮気味に見栄を切ったこの夜の主役を、共演者たちが舞台の袖で十重二十重に取り囲む。それはまるで千秋楽のような大団円、気づけば舞台の上には誰ひとり残っていなかった。大久保嘉人を軸に描いた少し長めの序章、チャプター・ゼロはこうして幕を閉じた。

「This is awesome!」これぞ名場面、されど通過点。最高の結末を笑顔で堪能した人々も、ここまでが大河ドラマの予告篇に過ぎなかったと、やがて振り返ることになる。新たなキャスティングの舞台挨拶を終え、幕間をはさんで始まる新章・春の嵐。桜花咲く季節に物語は再び前進を始める。



タグ:大久保嘉人
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ウタカに乗った少年 [青赤「喜」怒哀楽]

あまり見ない少し洒落たカフェを過ぎると、あまり見ない少し洒落たハンバーガーショップがあった。プライベートでも滅多に来ることのない(来る理由のない)骨董通りを歩く。時間は水曜22時、状況としては接待会食後の二次会が終わったところ。お客さまと別れ、さあ内輪のメンバーでどうしようかと。

「眼球をわしづかみにされる」そんな喩えが思い浮かんだ。iPhoneの液晶画面にはあまり見ない少し洒落たスコアが映し出されていた。ゴメンちょっとクラっときたから帰るわ。まだ目眩(めまい)が治らないのかと心配する同僚に詫びて、銀座線の駅へ急いだ。そう、クラクラっときたのよ、「6」に。

渋谷で京王井の頭線へ乗り継ぎ、明大前で降りる。単身仮住まい、録画機器を持たない僕が深夜に転がり込めるのはココしかない。「LIVRE(リブリ)」のマスター(not DAZN but ZONO)さんには事前にメールでワガママを伝え、受諾頂いていた。全ゴール見たい、でも終電で帰りたい。

客がある程度はけた後でも、店内には熱気が残っていた。吉祥寺行きの終電時間を鑑み、前半ハイライトからディレイ放映を始めて頂いた。息つく間もなく好機が作られ(そりゃそうだハイライトだもの)阿部拓馬の先制ゴールが生まれる。拳を握り喝采を上げる、のは僕だけ。一人を除いてすでに満腹だった。

その男の登場からパーティーはさらに加速してゆく。PKを譲り受けた後の笑顔、仲間の得点を祝する笑顔。丸い顔がいっそう丸みを帯び、観てるこちらまで幸せにしてくれる。中島翔哉を背中にちょこんと乗せるシーンは、友情の大切さをテーマに制作された、子供向けムービーから切り出されたようだった。

大型補強の陰と陽。怒れる狙撃手とは対極に位置する、笑うアフリカン。ピーター・ウタカの口は聞かされていた以上に大きく、両脚は思っていた以上に細く長かった。その笑顔の渦は大久保嘉人をも飲み込み、想像もつかない化学反応を生み出すか。口の中を覗いてみたい。答えが書いてありそうな気がする。



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狙撃手への役割期待 [青赤喜「怒」哀楽]

ネットの内側は一億総風紀委員の様相を呈している。苛立ちを露わにして、脱いだユニフォームを蹴った。これ即ち、誇り高きエンブレムを足蹴にしたのと同義である、ケシカラン。それがどうしたというヤツである。彼の行動そのものを礼讃するつもりは毛頭ないが、問題はそこにあるのか?という話である。

喧嘩上等、異分子歓迎。彼に期待する役割はまさにこういうことではなかったのか。吹田でここまで怒りと悔しさを爆発させた選手が他にどれだけいたか。往々にして電網世界の風紀委員各位は想像力と読解力に欠けるきらいがあるのでもう一度書かせて頂くが、所作そのものを好意的に受け取るものではない。

極論するとクラブへの忠誠心など二の次なのである。その実績を買われ招かれた傭兵、戦場のスペシャリストに行儀作法を期待するのは筋違いだろう。求められるは「依頼者との約束は必ず守る」という信条と、その実践のみ。「13 Thirteen」を背負いし狙撃手に妥協は要らない、笑顔も要らない。



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セカンド・オピニオン [青赤喜怒「哀」楽]

目眩を抑える薬、血圧を下げる薬。服用の仕方から投薬を止める時期といった処方詳細に至るまで、地元の医院で確認した内容がクアラルンプールで聞いた話と合致した。信用してなかったわけではないけどねと、中華系マレー人医師に心中詫びる。大切なことだから慎重に、複数の意見を確認・照合しないと。

苦杯でもなく惜敗でもなく。同日夜のガンバ大阪戦は、良くも悪くも血圧と脈拍に大きな変化を来さぬ内容と結果に終わった。勝ってるチームのほうが寄せが速くて、球際が厳しい。余程の幸運が重ならないかぎり、勝利を引き寄せるのは難しかっただろう。例のPKの場面も、嫌な予覚が当たっただけだった。

いつかは敗れるのだから。「良い負け方」だったのではないかと思う。妙なしこり、言い訳の材料を一切残さぬ敗戦であった。漁港で水揚げされてすぐ薄造りにされた真イカのように、透き通っていた。すべて見えた、見られてしまったと割り切って再構築する以外ない。他の選択肢がないことを利点と考える。

メディアが一斉に掌返しを始めるかもしれない。メディアとは、いわゆるマスと区分される媒体に加え、草の根のシロウト音源も含まれる。やれユニフォームを脱いで蹴った、エンブレムに対する冒瀆だと騒ぎたて、結果を出さない異分子だと叩き始める。この点については、追って私見を書き残したいと思う。

加入するなりのチーム批判。なかなかできるものではない。それだけの実績と責任感あってこそ、衝突を恐れず苦言を呈し続ける。PKを一本失敗したくらいで、そのスタンスは変えないでほしい。この展開でもロッカールームで仲間をおおいにドヤして頂きたいのだ。大久保嘉人への役割期待はそこにある。

ヨシトとは逆に、チームを離れることで強烈なメッセージを残した男がいた。寡黙な男だ、実際に何を語ったわけでもない。ただ、勝利への渇望感が他よりも抜きん出ていることは明らかだった。1-4のビハインドから89分に同点とした夢一夜、喝采を上げる同僚たちに、彼はひとり苛立ちを隠さなかった。

しばらくは、FC東京の同義語として大久保嘉人を主語とした報道が世を駆け巡ることになる。敗者からみた敗者の姿にはヨシトの言葉から思いを巡らせよう。他方、勝者からみた敗者の姿は?今野泰幸の目にはこの日の東京がどう映ったか。大切なことだからこそ慎重に、複数の意見を確認・照合したいのだ。



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194(後篇) [シゴトよりも東京]

あと1センチで林彰洋に追いつくな。モニターの表示値にぼんやりそんなことを思う。世の事象をなんでもFC東京に重ねる癖は治ることがない(そもそも血圧の単位はセンチではない)。担架で救急車に搬入されたときは、ほんの一瞬ながら米国プロレス的世界を体感しているようで高揚した。気楽なものだ。

それでもさすがに様々な思いが過ぎる。東京復帰にあたり、脂の乗った中間管理職よろしく奮闘してやろうと決意を固めた直後、序盤から大きく躓くのかもしれない。万が一のことがあったら家族に申し訳ない。せめて息子の結婚式までは生きていたい。物凄く感動的なスピーチの草案は七割方できているのだ。

まもなく家族を迎える新居での日々。再びピッチへ舞い戻る石川直宏。息子の受験と海外留学。ピーター・ウタカの爆発的化学反応。新しいご近所さんとのバーベキュー。リーグ首位争奪戦で超満員の味スタ。奥様との老後悠々ハワイ生活。死ぬにはまだ早い。見届けなければならないものがあまりに多すぎる。

疲労とストレスと過度のアルコール摂取。聞き取りやすいマレー系英語で医師に告げられたのはこの三点だった。カイシャには前ふたつのみ伝えることとしながらも、中長期的に時間をかけて「アル中」になってしまったのだと悟る。たしかに飲まなくても済む酒まで飲んでいた(だって開幕二連勝だもんね)。

世の中には大きく分けて二種類の酒飲みがいる。ひとつは自分に何かをつけ加えるために酒を飲まなくてはならない人々であり、もうひとつは自分から何かを取り去るために酒をのまなくてはならない人々だ。(「ドライブ・マイ・カー」村上春樹)
しばらく青赤的喜怒哀楽を酒に重ねるのは自重しよう。反省。



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194(前篇) [シゴトよりも東京]

血圧計の測定バンドが二の腕を絞める感触で目覚める。左手の甲に点滴の針が刺さっていた。電子音をたてるモニターに目をやると、信じ難いほど高い値が表示されていた。会議室に駆けつけてくれたスタッフが即興で測ってくれた(としか思えなかった)数値が間違いではなかったのだと朦朧とした頭で悟る。

81階の会議室。台北やドバイでさらに高いビルを見たことはあったが、実際に中を昇ったなかでは、人生で最も高所に位置していた。ツインタワーというだけあって途中に(40階くらいだったか)互いの塔を往き来できる連絡橋があった。しかし帰りは直通のリフトで地上へ急行。連絡橋へは行けなかった。

噛み合うことない売主と買主の見解。出張に出る前から期待薄だったが、平行線が平行線であることを確認して長い打合せが終わる。日本の取引先から要請されていた「伝えるべきこと」は力強く強調したものの、スコアレスドロー。試合終了直前から周囲がぐるぐる回り始め、起き上がれなくなってしまった。

予兆はあった。年末年始に転勤が絡んで昨年12月以来、忘年会・新年会・送別会・歓迎会と、とにかく夜遅くまで多忙を極めた。日中に執務室で目眩(めまい)がすることも一度や二度ではなかった。気温差20度の異国で朝からジョギング、結果として目眩の特上クラスに高層ビルの遥か上層階で襲われた。

自力で身体を支えきれない。車椅子から担架へ、担架からまた別の担架へ。壊れたメリーゴーランドのように世界は回り続け、何故に担架を乗り継がねばならぬのかという単純な疑問すら呈する余裕もなかった。巨大なビルの正面玄関に到着した救急車、集まる衆目。なるほど「それ専用」の担架だったわけか。

大袈裟なサイレン音が気恥ずかしく、失神したふりをした。『パスポート含め荷物はこちらで預かりますから』という部下の声に虚勢を張ってピースで応える。パスポートの写真を見られてしまうのだろうか。2016年ACLモデルの青赤レプリカ(米本拓司)を着た笑顔の僕を見て、彼は何を思うのだろう。



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ヨシトと空を飛びたくて [シゴトよりも東京]

ポンというチャイム音とともにシートベルト着用のサインが消えた後、座席前のポケットから取り出したマニュアルを見ながらiPadの液晶を指でなぞる。クレジットカードの情報を入力してしばらく、新規メールの受信を確認した僕は人知れず笑みを浮かべた。夢の機内プロレス観戦、いけるかもしれない。

野球、バスケ、アメフト。米国のメジャースポーツファン(の一般的なサラリーマン)なら誰もが痛感する時差の壁がある。すなわち日曜に現地で開催される試合を、日本では月曜午前に観ることになるのだ。夜ふかし(または超早起き)さえすればどうにかなる欧州サッカーのそれとは根本的に条件が異なる。

例年1月末から2月頭にやたら肩幅の広い「体育会リーマン」たちによる午前半休が大量発生するのをみるにつけ、祝日法をもう少しカスタマイズして、スーパーボウルとレッスルマニアが開催される日曜の翌日は、旗日として確約してくれたらいいのにと思う(これも立派なBuy Americaだよね)。

米国のプロレス「WWE」をこよなく愛する僕もご多分にもれず、日曜の結果を知ることなくコソコソ帰宅して、月曜夜にゴニョゴニョするのを喜びとする週五勤務の労働者である。そんな畜生にとって月曜朝出発の出張は、鎖から解き放たれたまま花畑で乱舞する、そんな甘美な好機を予感させるものだった。

国際線の機内でWi-Fi接続サービスが始まったのは数年前のことだ。初期の無料キャンペーンの頃から、不良サラリーマンはこれを頑なに拒絶してきた。時間とメールに追われる日常からの避難所。スマートフォンの電源を切った瞬間、そこに広がる自由の世界。現代のオアシスを上空の彼方に求めていた。

閑話休題、相変わらず文章がくどい。冗長な作文を悪癖と恥じつつ簡単に整理すると、要はなんとか観られたよプロレスは。それに対してDAZNの(というよりJリーグの)体たらくたるや…というのがこの記事の主旨である。機内のネット接続はメールやLINEのやりとりは問題なく行えるレベルだった。

しかし大容量のデータ受信を求められる動画配信を楽しむには、さすがに力不足であった。航空会社のサービス案内にもやんわりと「さすがにそこまでは無理やで」と記されているので、そのこと自体にケチをつけるつもりはない。ドーンと始まったWWEのPPVイベントだったが、まもなく画面が凍結した。

予見されていたことだったので失意の度合いは小さい。それどころか音声だけは滔々と流れ続けるので、ラジオでビッグイベント序盤の煽りアナウンスに耳をすますような、不思議な楽しみ方ができた。16.80ドル、リスニング教材としてはお高いが、好奇心を満たすための実験費用としては有意義だった。

さすがは世界一のプロレス団体。World Wrestling Entertainmentの名に恥じぬサービスの提供だ。一定の満足感を得た僕は期待薄でDAZNのアイコンを指で押す。案の定、入口からシャッター・ガラガラ。版権ビジネスの難しさがあるのはわかるけど、まだ日本国の上空だよ?

映像も音声も楽しめない、翼の折れたDAZN。かくして大久保嘉人の新チャント「ヨシトが空を飛ぶ」を、実際に空飛びながら口ずさむという遠大なる野望は未遂に終わった。Jリーグ世界戦略、その道は険しい。森重真人がビシッと締める宣伝「FOR YOU」とは国内のファンに限定したものだったか。



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