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Hello, I'm home.(前篇) [憧れの中央線生活]

こんなに夜遅くなっても、驚くほど多くの人々が改札口から吐き出されてゆく。見慣れたはずの景色だが、六年ものブランクを経た身体が思考についていかないようで、日に数度は目眩を覚える。疲弊した肉体と肝臓を引きずって、その駅の南口に降り立つ。バス通りにたなびく旗に心が潤う。旗の色は青と赤。

朝早くから働き、夜遅くまで飲む。新天地で新たな任務を与えられたサラリーマンの宿命である。いつしか漠然と憧れていた中央線沿線の生活。昨年末から続く不摂生がたたりボロボロになっている身体だが、新鮮味と高揚感が背を押し足を軽くしてくれる。右折しても左折しても、そこに青赤の旗が連なる街。

転勤、転居。物件を探すにあたり、フツーであればコンパスの針をオフィスにあてるものらしい。首都圏にぐるりと環を描き、家賃と通勤時間を天秤にかけて、理想と現実の狭間に着地点を見出す。ところが僕の場合は最初から針がスタジアムに固定されていた。ぐるりの中心に位置するのは、他ならぬ飛田給。

新居の選出条件は三点。一つ、息子と一緒に自転車で味の素スタジアムに通えること。二つ、最寄駅そして商店街に青赤の旗が掲げられていること。通勤時間なんぞ端から度外視、最寄駅は「最早寄ってすらいない駅」の略称であり、不動産屋情報によると徒歩35分(誰が歩くねん)。そんな郊外の、畑の隣。

新居探し三つ目の条件「奥様の御承認を賜る」が暴走に歯止めをかける抑制力だった。息子を育てるにあたっての周辺環境、小中学校までの通学環境など、社会人・常識人として極めてまっとうな点検項目のチェックを済ませ、ハンコをポンと。夢にまで見た「味スタチャリ通生活」の権利を得た瞬間であった。



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