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194(前篇) [シゴトよりも東京]

血圧計の測定バンドが二の腕を絞める感触で目覚める。左手の甲に点滴の針が刺さっていた。電子音をたてるモニターに目をやると、信じ難いほど高い値が表示されていた。会議室に駆けつけてくれたスタッフが即興で測ってくれた(としか思えなかった)数値が間違いではなかったのだと朦朧とした頭で悟る。

81階の会議室。台北やドバイでさらに高いビルを見たことはあったが、実際に中を昇ったなかでは、人生で最も高所に位置していた。ツインタワーというだけあって途中に(40階くらいだったか)互いの塔を往き来できる連絡橋があった。しかし帰りは直通のリフトで地上へ急行。連絡橋へは行けなかった。

噛み合うことない売主と買主の見解。出張に出る前から期待薄だったが、平行線が平行線であることを確認して長い打合せが終わる。日本の取引先から要請されていた「伝えるべきこと」は力強く強調したものの、スコアレスドロー。試合終了直前から周囲がぐるぐる回り始め、起き上がれなくなってしまった。

予兆はあった。年末年始に転勤が絡んで昨年12月以来、忘年会・新年会・送別会・歓迎会と、とにかく夜遅くまで多忙を極めた。日中に執務室で目眩(めまい)がすることも一度や二度ではなかった。気温差20度の異国で朝からジョギング、結果として目眩の特上クラスに高層ビルの遥か上層階で襲われた。

自力で身体を支えきれない。車椅子から担架へ、担架からまた別の担架へ。壊れたメリーゴーランドのように世界は回り続け、何故に担架を乗り継がねばならぬのかという単純な疑問すら呈する余裕もなかった。巨大なビルの正面玄関に到着した救急車、集まる衆目。なるほど「それ専用」の担架だったわけか。

大袈裟なサイレン音が気恥ずかしく、失神したふりをした。『パスポート含め荷物はこちらで預かりますから』という部下の声に虚勢を張ってピースで応える。パスポートの写真を見られてしまうのだろうか。2016年ACLモデルの青赤レプリカ(米本拓司)を着た笑顔の僕を見て、彼は何を思うのだろう。



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