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サナギ(後篇) [青赤「喜」怒哀楽]

赤黒のストライプ。ゴール裏でひと際目を引くハングルのロゴは間違いなく彼の支援者。肩にかかる長髪、女性的魅力すら感じさせるスラリと伸びた両脚。高萩洋次郎に惚れた以上、一途な愛を貫くほかない。この日はカシマと比べると空回り気味だったか。類似品なき天才肌、その流麗さの虜にさせてほしい。

巷の話題はどうしても前線の選手に偏りがちになるが、開幕二戦で最も勝利に貢献した選手は林彰洋だというのが私見である。物理的にはもちろん人間的にも本当に「大きい」という印象。ハイボールの処理に絶対的信頼を置いて観戦できる、そんなありそうでなかった喜びを大守護神・林が教えてくれている。

渇望感を全身で表現してくれる。中島翔哉の「ガツガツ」が無事に年を越してくれた。怒りつつも冷静なループを放つヨシトに大人の所作を感じた次の瞬間、青臭いまでの実直さをもってこぼれ球に食らいつく青年の主張をそこにみた。新しい背番号23を背負って、この先どのような成長を遂げるのだろうか。

左手、そして右手。いずれも己が手で球体を弾いた末の失点。塩田仁史の両の掌にはいまだに悔恨の感触が残っていることだろう。特に一失点目は厳しい批判に晒されてもおかしくないものであり、ポジション争いに負の影響を与えるのではないかと心配になるが、申し訳ない、こちらもそんな余裕はないのだ。

ちょうど暦の上では啓蟄(けいちつ)。土中に隠れ閉じこもった虫たちが這い出てくるという意の季語である。例年、立派な成虫に育つことを期待されながら、鳥たちに(または鹿や海豚といった害獣たちに)ついばまれてきた無力な蛹。はたして今年こそ脱皮に脱皮を重ねて、大きく美しい翼を広げられるか。

「今年こそは」「今年こそは違う」と思いを分かつ仲間たちと杯を交わしてきた。だが季節の移り変わりとともに、杯を満たす酒の種類も変わっていってしまった。『今年の「今年こそは違う」は違う』他所に気づかれたくない二連勝。脱皮を促進するのは蛹の本能、蛹の意思だけである。ただ信じて、見守る。


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サナギ(前篇) [青赤「喜」怒哀楽]

部屋の掃除をする。特にトイレは汚れてなくとも、改めてピカピカにする。深呼吸をしてから目を閉じ、静かに祈る。神棚のアマラオ・フィギュアは依然(部屋の隅に積み重なっている)段ボール箱の中で眠っているので、かわりに石川直宏のポスターに向かって掌を合わせる。出陣前のルーティンは変えない。

千歳烏山駅行きのバスに乗る。スタジアムまで自転車で行ける距離という条件で選んだ新居だが、今日はオトナの事情でチャリ通は許されない。京王線に乗ってから先は、寸分の違和感もないいつもの道程。目をつぶってでも味の素スタジアムへたどり着くことができる。春の到来を期待させる陽光の下、歩む。

いつの間にか共進倉庫の建物がなくなっていた。その対角線上には巨大な建造物が完成しつつあった。変わりゆく飛田給の景色、変貌を遂げたのは田邉草民の髪型だけではなかった。ハレの日、ハレの場。今年のホーム開幕戦をはいつもと違うスタンドから見守ることになった。オトナの事情というヤツである。

ジャケットを着て、お行儀よく座っての観戦。レプリカユニフォームは鞄の中。エンブレム・デザインのピンバッチでさりげなく自己主張をさせて頂く。前半は腰が浮くことすらない、低調な仕上がり。ピッチから流れくる風が、陽の当たらないスタンドの冷却を加速させる。芋焼酎のお湯割りが欲しくなった。

スタジアム内の誰もが、明らかな特徴として把握できる。永井謙佑が疾る。「走る」よりこちらのほうがしっくりくる。その速さは、届かないところまで届くという意味で革命的ですらある。永井がドリブルに転じるその一歩目、注視するとそれは自分で自分に出したパスであることがわかる。ワケ・ワカラン。

その永井に対し怒りを露わにした65分。大久保嘉人の足下を狙ったパスのベクトルは、彼の意に沿うものではなかった。いいぞ、もっとやれ。ピッチ内外における意識改革の牽引者たる役割期待。その怒りが空気を引き締め、脱皮の促進剤となる。クラブにとってはじめての「いかつい」存在。怒れ、ヨシト。



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FC東京「ゴール時間帯指定サービス」導入へ [東虚中日スポーツ]

Jリーグ1部・FC東京が業界では異例といえる「時間帯指定サービス」の導入を検討していることがわかった。得点力の高い選手を中心にゴールを奪う時間帯を事前に割り振り、これを実践することで顧客志向のきめ細やかなサービスを目指す。ロースコアが通常とされる競技における難易度高い取り組みだ。

指定可能な時間帯は「前半15分から30分」のように基本15分単位で区切られる。スタジアム出口調査およびクラブ公式サイトでのアンケートを通じて集計したデータを解析し、顧客ニーズを精査する。「前半終了間際はトイレに行くので避けてほしい」といった個別の要望にも応えていく意向(関係者)。

クラブは配達希望が特に集中すると予想される前半開始30秒以内、後半ロスタイムの両時間帯を「プライムタイム」と設定し、決定力に定評のある配達員を複数配置する考え。2000年代前半から根づく、状況を問わずゴールが決まれば「いい時間帯」の一言で片づけていた牧歌的カラーからの脱却を図る。

『娯楽の選択肢が多い首都・東京で勝負するにあたって、多様化・複雑化する顧客要望に如何に応えていくかが重要。時間帯指定サービスの試験運用を経た後は、配達員の指名と配達方法の指定まで実現させたい。具体的には「後半43分・前田遼一のヘッド」というイメージ』FC東京の立石敬之GMは語る。

他方、時間帯指定サービスの定着が配達員の過密労働に繋がることを懸念する声も聞こえる。業界では以前よりゴール前まで運ばれたボールが「再配達」へと回される率の高さが課題とされており、ピッチの隅から隅まで走った末に上げたクロスが成就せず、肩を落とすSBの労働環境悪化が問題視されてきた。

『問題点は把握できている。我々としてはマンパワーの増加をもって提供サービスの維持と向上に努めたい』と立石氏。FC東京はこの言葉を裏づけるように今シーズン、大久保嘉人・永井謙佑という実力者に留まらず、昨シーズンの最優秀配達員に輝いたピーター・ウタカまで獲得する異例の補強を決行した。

『このサービスの理想像はリアルタイム・オンデマンド』。どこで覚えたのか立石氏は鼻息荒くこんな言葉まで用いる。試合中にファン・サポーターがスマートフォンを介して入力した時間帯・配達員・配達方法のデータがベンチに瞬時に伝わり、その情報をベンチから篠田善之監督がピッチ上へ大声で伝える。

将来的には「モリワキの涙目オウンゴール」のような踏み込んだニーズにも応えられるような仕組みを作りたい(立石GM)。遠大とも思えるビジネス構想に対して、常連顧客層からは「前線の配達員より後方の配送センターに投資すべきでは」「とにかくシュート撃て」「誰でもいい」といった声も聞こえる。



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Hello, I'm home.(後篇) [憧れの中央線生活]

生活の設営はユーティリティーの整備から始まる。いわゆる電気・ガス・水道の三点セット。電力小売自由化という流れに乗じて「東京ガス様」からガスのみならず電気も買わせて頂くこととした。一切の迷いはなかった。生活の隅から隅まで青と赤に浸かりたい。できれば水道も東京ガス様と契約したかった。

生活の設営が済んだら、精力的に街へ繰り出す。なにせ土地勘がない。情報は足で稼ぐものと、張り切ってジョギングするまではよかったが、青赤の旗に誘われるがままたどり着いたのは、お隣の武蔵境駅だった。最寄駅へすらいけない若葉マーク、そんな状況にも笑いが止まらない。なんだか嬉しくて楽しい。

自転車に乗ると活動範囲は一気に広がる。東八道路を西へ向かい、多摩霊園を抜けて府中へ。大國魂神社は競馬場の巨大なスタンドを左手に見た、その先にあった。選手たちに遅れること数週間、心を鎮めて掌をあわせる。無病息災・交通安全・必勝祈願。もう一度必勝祈願、さらに念のためもう一度必勝祈願。

神社からの帰りは、甲州街道を東へ。やがて見慣れたスタジアムが見慣れない角度から現れる。聖地から聖地へ。浄化した心が一転、熱く滾(たぎ)るのを感じた。下車して一礼。ここから自宅への道程は、息子を連れて自転車通学するルートの下見となる。通学。そう、スタジアムは社会の学び舎なのである。

再び地元に戻り、駅近くのひなびた跨線橋へ。広大な電車庫に架かる太宰治ゆかりの橋は、鉄道ファンにも有名だ。かつてはベビーカーに息子を乗せて練馬からここへ通ったものだった。大好きなスーパーあずさに手を振っていた彼は、三学期が終わると東京へ帰ってくる。今度はどのような反応を示すだろう。

冬と春が入り交じった風を感じながら、僕はペダルを踏み込む。路線バスが停車するだけでノッキングを起こしてしまう細いバス通り。少しずつ経験を重ね学習した抜け道へ、そこにもたなびく青と赤。自然と笑みが浮かぶ、希望に満ちた新生活。風が吹き、旗がたなびく。夢見た日常、時計の針が動き始めた。



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Hello, I'm home.(前篇) [憧れの中央線生活]

こんなに夜遅くなっても、驚くほど多くの人々が改札口から吐き出されてゆく。見慣れたはずの景色だが、六年ものブランクを経た身体が思考についていかないようで、日に数度は目眩を覚える。疲弊した肉体と肝臓を引きずって、その駅の南口に降り立つ。バス通りにたなびく旗に心が潤う。旗の色は青と赤。

朝早くから働き、夜遅くまで飲む。新天地で新たな任務を与えられたサラリーマンの宿命である。いつしか漠然と憧れていた中央線沿線の生活。昨年末から続く不摂生がたたりボロボロになっている身体だが、新鮮味と高揚感が背を押し足を軽くしてくれる。右折しても左折しても、そこに青赤の旗が連なる街。

転勤、転居。物件を探すにあたり、フツーであればコンパスの針をオフィスにあてるものらしい。首都圏にぐるりと環を描き、家賃と通勤時間を天秤にかけて、理想と現実の狭間に着地点を見出す。ところが僕の場合は最初から針がスタジアムに固定されていた。ぐるりの中心に位置するのは、他ならぬ飛田給。

新居の選出条件は三点。一つ、息子と一緒に自転車で味の素スタジアムに通えること。二つ、最寄駅そして商店街に青赤の旗が掲げられていること。通勤時間なんぞ端から度外視、最寄駅は「最早寄ってすらいない駅」の略称であり、不動産屋情報によると徒歩35分(誰が歩くねん)。そんな郊外の、畑の隣。

新居探し三つ目の条件「奥様の御承認を賜る」が暴走に歯止めをかける抑制力だった。息子を育てるにあたっての周辺環境、小中学校までの通学環境など、社会人・常識人として極めてまっとうな点検項目のチェックを済ませ、ハンコをポンと。夢にまで見た「味スタチャリ通生活」の権利を得た瞬間であった。



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